Production Note

物語の背景:“ブラックリスト”入りの脚本

すべてはGoogleの検索から始まった。2010年のサンダンス映画祭でプレミア上映されて絶賛を浴びた『[リミット]』。この映画の脚本を担当したクリス・スパーリングが注目され始めてから、少し経った頃のことだ。何気なくインターネットを覗いている間に、クリスは日本に実在する天然の奇妙な地域を偶然発見した。その場所の名称は青木ヶ原。『追憶の森』の主人公アーサー・ブレナン(マシュー・マコノヒー)がオンラインで調べものをしていて見つけた経緯に似ていなくもない。
どんな偉大な映画も偉大な脚本から生まれる。「『追憶の森』はここ5年間で読んだ中でも最高の脚本だ」マシュー・マコノヒーは言う。「美しい俳句が連なっているようだ。まさに驚異的だ。読んでいてぞくぞくしたよ」
製作担当のケン・カオは本作について、人間が悲しみと向き合う姿勢がいかに多様なものかを描いた作品だと語る。「アーサーとタクミはそれぞれの人生で大きな喪失を経験し、それぞれのやり方で何とか出口を見つけようと悪戦苦闘する。私にとっては、そこがこの映画の、そして人生全般の最も美しい部分なんだ。自分の悲しみをどうやって乗り越えるか、というところがね」

スパーリングは場所について考える。「真っ先に衝撃を受けたのは、こういう人たちが移動する距離の長さだった。日本国内どころか、地球を横断するような距離を、そこで自殺するというたったひとつの目的のために旅するというところがね。もちろん、隣の部屋に行って睡眠薬を大量に飲むことだって、どうしようもない悲劇であることに変わりはない。だがね、ほんとに僕の興味を引いたのは、彼らが時には何日もかかるほどの距離を旅する上に、その途中でさまざまな人々と交流を持つというのに、それでも当初の計画通り自殺を決行する、その驚くべき意志の固さはいったいどこから来るのか、という点なんだ。彼ら自身が決心して、どんなものも、どんな人も、それを覆すことはできないんだからね」
「実は登場人物を創造するよりも、場所の方を先に思いついたんだ」スパーリングは言う。「青木ヶ原について読んだとき、ただ地理に関する妙な雑学のひとつという以上のものを感じた。神秘的で、精神的な深みがあって、しかも不気味極まりない森。そこで、今まで映画に登場したことのないこの素晴らしい舞台から物語を掘り起こそうと、作業を始めたんだ」
「最初に考えたのはホラー映画のようなものだった。でもそれじゃあ当たり前すぎる」スパーリングは続ける。「やがて、ドラマと感情のうねりに焦点を合わせるべきだと気づいた。調べていくと、実際に多くの人がそこを訪れ生と死について黙想してきたことがわかった。その中のある人は決心を翻すけど、森はあまりにも入り組んでいてもう方角もわからなくて……森はその人を虜にしてしまう。人が、ずいぶん長い旅をしてきたあとで、自分の決心について再考と熟慮を重ね、やがて復活に至る……ところが、人生を肯定するこの美しい転換点をやっとのことで通過できたというのに、もはやそこに閉じ込められて、結局は死ぬはめになってしまう……そういう状況に僕は魅せられたんだ」

スパーリングはアカデミー賞®作品賞候補となった製作者ギル・ネッターと協力しながら脚本を形にしていった。「実際に会う前から、ギルの仕事は素晴らしいと思ってた」スパーリングは言う。「『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』といい『しあわせの隠れ場所』といい、美しくて深遠な映画を作ってきた製作者だよ。以前は『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)の製作も指揮していた。夢中になれて生きる希望を与えるような映画を作ってくれる……主人公が内省と瞑想と生還の旅に出発するような。最初から、ギルは僕のアイディアと脚本、その背後に込められた深い意味を理解してくれた。」

ネッターとスパーリングは、この企画を始動させてからもしばらくは内輪だけで検討を続け、外部には秘密にしておいた。しかし、信頼できる相手だけになら脚本を見せてもよさそうだと判断したとたん、ハリウッドの知識層の間で瞬く間に噂が広まり本作の脚本は、権威ある"ブラックリスト"に載ることになったのである。このリストは、スタジオや映画製作会社の重役たちの歯に衣着せぬ意見を元に、ハリウッドで最も愛されながらも未だ映画化に至っていない脚本を載せたリストで、広く回覧されてはいるがまだ内部情報レベルのものだった。
カオが脚本を読んだのは2013年の終わりにかけてのことだった。彼はこの企画とのなれそめについて語ってくれた。「ギルと私が初めて会ったのはこの企画のためだった。そのときには、まだ俳優はひとりも決まっていなかった。脚本を読み終わった最初の感想は、私がこの仕事を始めて以来読んできた中で最高の作品だということだ。実によく書けていて、勇気を与えてくれる。ギルのオフィスに座ってこう言ったのを覚えているよ――『惚れ込んだよ!映画化させてくれ』。

キャストについてカオは言う。「マシューに謙にナオミ。まさに理想的なキャストをそろえられて私たちはほんとに恵まれているよ。『ダラス・バイヤーズクラブ』が評判になって、次々に受賞し始める直前にマシューに参加してもらえたのは、本当に幸運だった。今でも覚えているが、この映画と、我々がいっしょに出ることになる旅について、何時間も実り多い会話をした。とにかくいい感じだった」

マコノヒーはこの映画に参加するきっかけを語る。「ここのところ、自分が怖気づくような役を選んでいるんだ……今度も間違いなくそんな役だったよ!」
「『インターステラー』の撮影がちょうど終わったところだった。2014年の初め頃で、ゴールデン・グローブ賞の発表が迫り、アカデミー賞®までにはまだ何ヶ月かあった……。『ダラス・バイヤーズクラブ』が賞をたくさん獲って称賛を浴びる前さ。製作者のギル・ネッターが脚本を見せに来た。読んでみて、すぐに素晴らしい脚本だとわかった。実際、やっと思い出せるほどの昔を振り返っても、これ以上の脚本はなかった気がする。すぐに参加したいと思ったよ。よく考えてから返事をしなきゃならん作品とは違っていた。ストーリー自体大好きだった。ガス・ヴァン・サントが監督だっていうことも、アーサーっていう主人公も、それにこれがとても困難な仕事になりそうなところもね」
「この映画は俺にとってとても精神的で直感的な選択だった。ちょうど『インターステラー』を撮り終えたところで、あれは『遥か彼方へ旅に出よう』っていう映画さ。一方こっちは『内面深く旅に出よう』っていうわけだ。そのときは、『ダラス・バイヤーズクラブ』のためにずっと人前に出て宣伝していたのがやっと終わったところだったし、森の中をひとりで静かに散策したいと思っていた。少し瞑想が必要だったんだ……自分を見つめ直す時間もほしかった。脚本を読んだあと言ったよ。「いいかい、これは美しいストーリーだし、仕事が手に入る上に、やりたかった瞑想もできるわけだ」